株式の財産分与について
財産分与の対象となる株式
基本的に、婚姻後に取得した株式であれば、財産分与の対象になります。婚姻後に取得した株式であっても、婚姻前の独身時代の貯金を原資として取得した株式、相続や贈与により取得した株式は、夫婦が婚姻期間中に築いた財産とは言えないので、財産分与の対象になりません。
また別居後に取得した株式は、その取得原資が同居中に築いた共有財産ではない場合には、財産分与の対象になりません。
いつの時点が基準点か
別居が先行している場合には、基本的に、別居時に保有していた株式が現在(訴訟中であれば、口頭弁論終結時)どのくらいの価値があるかによって判断します。ただし、別居後に株式を売却した場合には、その売却価格が評価額とされます。
例えば、別居時に夫婦の一方が上場株式を100株保有しており、別居後に別居後の収入で150株に増やし、現在の価値が1株1000円の場合には、別居時の100株×1株1000円=10万円が分与対象となります。
なお、株価の変動が激しく、別居時と現在の株価に大きな乖離がある場合は、財産の公平な分配という財産分与の趣旨から、別居時と現在の株価の平均値を基準とすることもあります。また会社経営者が持つ自社の非上場株式については、別居時の株価を評価額と考える余地もあります。
株式の分与方法
株式の分与は、当該株式が共有財産である限り、原則として2分の1ずつの分与になります。株式の現物を2分の1ずつ分与することもありますが、当事者が現物の分与を望まない場合には、株式を現金に評価し、代償金として2分の1の現金を支払うことにより解決することが可能です。
特に会社経営者が保有する自社株は、現物を分与すると、配偶者が離婚後に経営権にかかわることになるため、これを避けるために代償金を支払って解決することが少なくありません。
なお、会社経営者の特別な才能や手腕、努力等によって会社の規模が拡大し、その結果保有する自社株の価値が大きく上がった場合には、2分の1の分与ではなく、会社経営者に多めの分与が認められることもあります。
株式の評価方法について
上場株式について
夫婦共有財産として、東証や大証、名証、JASDAC、マザーズなどの金融商品取引所に上場している株式を保有している場合には、別居時に保有していた株式の数に、現在(訴訟中であれば、口頭弁論終結時)の株式の時価を掛けて評価額を算出するのが一般的です。
上場株式については、金融商品取引所が取引日の終値を公表しているので、この額がその株式の価値となります。
非上場株式について
裁判所の判断
典型的には、中小企業を営む経営者が持つ自社株の評価が問題となります。非上場株式の評価については、裁判所で判断する際、明確な基準がなく、裁判官の裁量に委ねられています。
非上場株式の評価について判断した裁判例は多くありませんが、大阪高判平成26年3月13日判決(判タ1411・177)は、医療法人に係る出資持分について、当該医療法人の純資産価額に0.7を乗じた金額を出資持分の評価額とすべきだと判断していて参考になります。この裁判例は、医療法人の将来の流動的な要素を考慮して、純資産額の7割相当額を分与対象としました。
評価方法の種類
非上場株式の評価方法としては、純資産価額方式、類似業種比準価額方式、配当還元方式、等の方法があります。
通常は会社の直近の決算書類を基準に株式を評価しますが、会社の利益が年度によって大きく異なる場合には、3期分の平均をとって評価することもあります。
①純資産価額方式
純資産とは、貸借対照表の資産から負債を引いた金額のことを指します。
純資産価額方式は、簿価純資産法と時価純資産法に分かれます。
簿価純資産法は、貸借対照表上の資産から負債を引くことにより企業価値を算出する方法です。対象会社の貸借対照表と、保有する株式の割合がわかれば計算できる簡易な計算方法であり、互いに早期解決を目指す場合には、この方法により会社の時価を算定することがあります。
時価純資産法は、資産や負債をまず時価に換算し、換算後の資産から換算後の負債を引いて企業価値評価を算出する方法です。貸借対照表上の数字は、取得価格が書かれている場合が多く、資産や負債が含み益や含み損を抱えていてもそれを正しく反映しているわけではないので、単に貸借対照表上の資産から負債を引く簿価純資産法は、正確性を欠く場合があります。
したがって、より正確に時価を計算するのであれば、時価純資産法により会社の時価を算出する方が適切といえます。もっとも、全ての資産を時価評価する必要があるため、専門的知識が必要になることと、それぞれの時価額を巡って争いが起き、解決までに時間がかかるというデメリットがあります。
②類似業種比準価額方式
上場している類似会社や類似業種の株価と比べて対象会社の時価を算出する方法です。
非上場会社の株式の財産価値を知りたいとき、その会社と事業内容が類似している上場会社を見つけ、その株式を基準にして対象会社の株式の評価額を決定することがあります。
非上場会社と上場会社は規模が異なるため、対象会社に類似する上場会社の株価に、「配当」、「利益」、「純資産」の3つの要素で加味して算出する必要があります。
会社によっては、上場している類似会社や類似業種の企業を探すことが難しく、適切な比較ができない場合があるというデメリットがあります。
③配当還元方式
対象会社の株式を所有することによって受け取る、一年間の配当金額を10%の利率で還元して元本である株式の価額を評価する方法のことをいいます。
1株当たりの年配当金額は、直前期末以前2年間の配当金額の平均金額により算出します。また1株当たりの年配当金額を算出する際には、1株当たりの資本金の額を50円とした場合の発行済株式数をもとに計算します。
なお、配当をしていない会社の場合は、1株当たりの年配当金額を、2円50銭と仮定して計算を行うこととなります。
株式の財産分与を考えている方へ
株式は、その基準時、分与方法、評価方法等を巡って争いになることが少なくありません。株式は重要な財産であり、時には財産分与の大きな割合を占めることもあります。
特に非上場株式については、どのような評価方法を採用するかによって、財産分与の内容が大きく変わることもありますので、そのような場合には、それぞれの評価方式のメリット、デメリットを踏まえ、ご自身の立場にとって一番メリットの大きい株式の評価方法に基づいて主張することが重要になります。
当事務所では、依頼者が解決までの迅速性を一番重視しているか、それとも金銭的なメリットを一番重視しているか等を踏まえ、株式の財産分与について最善のサポートをさせていただいています。提携している公認会計士に株式の評価の鑑定を依頼することもできますので、株式の財産分与が問題となっている場合は、一度ご相談ください。